たとえば、激しい恐怖を経験した部屋に入ると、実際に恐怖の刺激が無くても、強い恐怖を感じて心も体も凍り付きます。
このような恐怖反応を、文脈的条件付恐怖反応といいます。
ここでいう文脈的とは、単独の刺激(例:音)ではなく、壁の色や家具の配置などを含めた部屋という状況的な刺激を意味します。
このような文脈的恐怖が発現するためには、記憶を司る海馬から扁桃体に信号が送られ、それによって扁桃体が興奮することが必要です。(下図)
①腹側海馬から扁桃体のBLAに信号が送られBLAの活性が上昇する
②活動の高まった扁桃体BLAが扁桃体中心核の出力を増強することで恐怖がもたらされる
このような恐怖の出現は、脳の最上位司令塔である前頭前皮質の働きによって押さえ込まれます。
前頭前皮質のうち、腹内側前頭前皮質(vmPFC)がこの役割を担い、vmPFCの活性化が起こると恐怖の出現は減少します。
(PTSDの人)
恐怖を消去する過程において、PTSDの人では消去学習中に扁桃体の過活動が認められます。
加えてPTSDの人では、消去学習中にvmPFCの低活性が認められます。
これは、vmPFCによる扁桃体コントロールがPTSDの人でうまく機能していないことを示唆します。
(不安障害の人)
また不安障害の人においても、vmPFCによる扁桃体コントロール障害が存在し、刺激の無い場面で過敏性を示すと考えられています。
不安障害の人では、不安の程度が強いほどvmPFCと扁桃体の結合が弱いことが示されています。
同様に、特性不安の程度が強いほど、vmPFCと扁桃体の結合が弱いことも分かっています。
このようなことから不安障害の人では、vmPFCが扁桃体の活動をトップダウンで制御して押さえ込むことに失敗すると考えられます。
不安障害の人では、扁桃体の活動が強いほどvmPFCの活動が弱く、不安障害のない人では、扁桃体の活動が強いほどvmPFCの活動も強いことが観察されています。
これは、不安障害の人ではvmPFCの活動が弱いために扁桃体の活動が抑えられないことを示唆します。不安障害のない人では、扁桃体の活動が強ければ、それを制御するためvmPFCの活動も強くなると考えられます。
(結論)
以上のことから、vmPFCによる扁桃体コントロールが不十分なことが扁桃体を過剰に興奮させ、それが過剰な恐怖・不安状態を出現させると考えられます。