マイスリーと性差—女性は男性の半分でいい

ベンゾ系の薬は、その依存性などから世界中で厳しい注意喚起がなされています。

しかしその効果の強さから、日本でも米国でもまだまだ膨大な量のベンゾ系薬が処方されています。

日本の現状を公開されているレセプトデータから見ると、最も多いのはデパスで、鎮痛薬のロキソニンより多く処方されています。(先発品のみの比較)

2019年のジェネリックを含めたベンゾ受容体作動薬総処方数は
エチゾラム(デパス)
ブロチゾラム(レンドルミン)
ゾルピデム(マイスリー)
アルプラゾラム(ソラナックス)・・・
の順でした。(外来での処方数)

エチゾラム(デパス)、ゾルピデム(マイスリー)は化学構造がベンゾジアゼピンと異なるので、非ベンゾと言われることがありますが、ベンゾと同様にベンゾジアゼピン受容体に作用します。
また、ゾルピデム (マイスリー)、ゾピクロン(アモバン)、エスゾピクロン(ルネスタ)をZ薬(Z-drugs)と呼ぶことがあります。
(Z-drugs:zopiclone, eszopiclone, zaleplon, zolpidem)

外来で処方の多いベンゾ系薬(2019年データ)

さて今回取り上げたマイスリーですが、睡眠薬としては処方が一番多い薬だろうと想像していました。

が、実際にエクセル表で計算すると、わずかな差でレンドルミンが睡眠薬として最多でした。

このマイスリーですが、米国FDAからいろんな警告、勧告を出されています。

一つは「睡眠中の異常行動」です。死に至るケースがあるとして、FDAの最大警告である枠囲み警告がなされています。(ブラックボックス警告)

FDAは具体的に、睡眠中に車を運転したり、歩行したり、食事したり、電話したり、セックスしたりすると説明しています。

このFDAの警告を受けて、日本でも厚生労働省の指導で、マイスリー添付文書のトップに赤字で次の枠囲み警告が追加されました。

警告
本剤の服用後に、もうろう状態、睡眠随伴症状(夢遊症状等)があらわれることがある。また、入眠までの、あるいは中途覚醒時の出来事を記憶していないことがあるので注意すること。

マイスリー

同様の警告は、ルネスタ、アモバン、ハルシオンにも記載されています。

またFDAはマイスリーについて、女性は男性の半分の量を使うように、という勧告を出しています。

女性はマイスリーの代謝が遅いので、同じ量を飲めば翌朝に残る可能性があり、

自分では完全に目覚めていると感じていても、不十分な覚醒状態で車を運転して事故を起こす可能性があり、危険であると説明しています。

もともと女性と男性では、体内の性ホルモンの違いによって不眠の出現頻度もメカニズムも異なります。(女性の方が入眠潜時が短く、徐波睡眠の時間が長く、睡眠の質が優れている

マイスリーに関しては、男性は女性の2倍代謝が速いことが報告されています。

逆に言うと、女性は男性に比べて代謝が2倍遅いことになります。

この理由は、マイスリーの主要代謝酵素であるCYP3A4が男性ホルモン・テストステロンの影響を受けることが関係しているようです。女性では血中テストステロンが低値なため、CYP3A4の活性が低下して、マイスリーの代謝が遅れると説明されています。

つまり、男性と同じ量を女性が飲めば、体内の濃度は最大50%高くなり、効果も長く持続することになります。

マイスリーにまつわる有害事象の報告が女性に多い印象がありますが、この代謝の性差が影響しているのかも知れません。

依存や反跳性不眠が少ないとされるマイスリーですが以下の様な報告があります–(英文です)

ゾルピデム突然中止後のけいれん(29歳女性)
ゾルピデム依存症(34歳女性)

2022年2月17日 | カテゴリー : | 投稿者 : wpmaster