ボーダーラインの薬物療法

(最終更新2022.07.29)

ボーダーライン パーソナリティ ディスオーダー(境界性パーソナリティ障害)、以下BPDと略します。

今回は、BPDの薬物療法について書いてみます。

現在のところ、BPDに適応を持つ薬は、日本にも欧米にも存在しません。

(BPD:Borderline personality disorder)
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公式に有効性が認められた薬はないのですが、実際には通院中BPDの殆どの方が、何らかの投薬を受けています。

経験的上は、「うつ病」の診断で投薬を受けているBPDの方が多いと思います。

BPDの方は、対人関係の不安定さ、歪んだ自己イメージ、著しい衝動性、さらには情緒の不安定さが長期に続くため、うつ状態を招きやすいのであろうと考えられます。

うつ病以外では、不安症、PTSD、摂食障害などの診断を受けている方も多いようです。

DSM-5によれば、BPDの発症は青年期または成人期の早期です。

BPDの人の思考・行動パターンは、柔軟性に欠けているだけでなく、社会的に受け入れられている規範から大きく外れているとされます。

このような思考・行動パターンが長期にわたって持続するため、社会生活や対人関係で強い摩擦が生まれます。

その結果としてうつ状態が生じ、社会機能が障害され、薬物依存や自傷行為、希死念慮につながる可能性が高くなります。

BPDの病因については、正確にはわかっていません。

BPDは一つの原因で生じるものではなく、複数の因子が不均質に関与して発症すると考えられています。

現在の有力な考え方は、
発症しやすい素因がまず存在し、その素因を持つ人にその人の限界を超えたストレスが加わることでBPDが発症する、というものです。

(素因ストレスモデル/脆弱性ストレスモデル)
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素因が大きく影響することについては、同性の双子を対象にした研究で示されています。

発症に至るストレス因子として多いのは、幼少期の性的虐待とネグレクトです。

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(薬物療法について)

比較的最近報告されたメタアナリシスによれば、薬物療法単独では、BPDの重症度を改善することはできないことが示唆されています。

症状の改善については、抗けいれん薬が怒り、攻撃性、感情の不安定さを改善することや、オランザピンが攻撃性と抑うつ症状の改善に有効であることが示されています。

ただし、これらの薬剤の効果を調べた研究は、対象者が少なく、十分なエビデンスを持たない、限定的な研究であることに注意が必要です。

気分安定薬のリチウムについては、十分な研究がないため評価できませんが、過量にならないように慎重に使用すべきものと考えます。

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薬物療法で避けるべきこと

1つはベンゾジアゼピンの使用を控えることです。

ベンゾジアゼピンは、BPDの治療に殆ど役立たないだけでなく、依存形成をもたらすことで、(特にBPDの方で)離脱がとても難しくなります。

また、ベンゾジアゼピンによる脱抑制は、BPDの症状を強化し悪化させます。

もう1つは、多剤併用を避けることです。

1つ薬を追加したら、別の薬を減らすといったやり方で、多剤にならないように注意します。

特に、激しい症状が出現した危機的状況で薬剤の追加が行われがちですが、あまり良い結果に結びつきません。

このような危機的状況の多くは、薬剤の追加を必要とするものではなく、対人関係における和解が必要な状況だからです。

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レキサルティ(ブレクスピプラゾール)の効果

最近行われたレキサルティを用いたRCTでは、有意な効果は認められなかったものの、「若干の」改善がもたらされています。

(Zanariniスケールで5ポイントの改善で、これは開始スコアの3分の1に相当します)

BPDの人は、きわめて高い拒絶感受性を持つことが報告されていますが、レキサルティは、その拒絶感受性の感度を低下させるのに役立つ可能性があります。

つまり、(BPDの人は一般の人に比べてより高い感度で)、自分が拒絶されるのではないかと予測し、その予測に対して強い不安を抱きます。

そのため、(自分の中に生まれた予測に基づく)拒絶に対して、否定的に激しく反応します。

他者に対する信頼感は損なわれ、安定的な人間関係の構築ができません。

このような、過剰な拒絶感受性の感度を、レキサルティが低下させる(つまり改善する)可能性があると示唆されています。

Grant, J. E., Valle, S., Chesivoir, E., Ehsan, D., & Chamberlain, S. R. (2022). A double-blind placebo-controlled study of brexpiprazole for the treatment of borderline personality disorder. The British Journal of Psychiatry, 220(2), 58-63.
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サプリメントの効果

境界性パーソナリティ障害に一部のサプリメントが有効であると報告されています。

サプリの名前は、魚油に含まれるオメガ3多価不飽和脂肪酸(EPA)です。
(1日摂取量は700mg~1000mg以上です)

メタ分析により4つの研究(RCT)が評価され、BPDに対する全体的な改善効果の大きさは 0.54(中等度の効果あり)でした。

また、感情調節障害については、改善効果の大きさは 0.74(臨床的に十分な効果)と、かなり大きな改善を示しています。

魚油の効果を調べる試験に参加するBPDの方は、比較的軽症例が多い可能性はありますが、効果量(Effect Size) 0.74という値は注目すべきものです。

研究では、魚油が「うつ」「自殺危険性」「感情の不安定さ」を軽減することや「衝動的な行動制御障害」「情動調節障害」を改善することが示唆されました。

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研究では以下のように結論づけています。

オメガ3脂肪酸はBPDの症状のうち、特に衝動的な行動制御障害と感情制御障害を改善するので、上乗せ治療として考慮してもよい。

Marine omega-3 fatty acid supplementation for borderline personality disorder: A meta-analysis