実際には効果が確認されている薬を、「この薬は効きません、偽薬(プラセボ)です」と言われて飲んだらどうなるのでしょうか。
そんな研究が社会不安障害の人を対象に行われました。
研究に参加したのは、平均年齢31歳の男女27人です。
実際には全員がレクサプロ20mgで9週間の治療を受けたのですが、、
参加者の半数には薬の有効性を正確に伝え、
残りの半数には「これは本物と同じ副作用をもたらす活性偽薬です。副作用はあっても効果はありません。」と説明しました。
(この割り付けは無作為に行われました。ランダム化試験です)
—
結果は予想通りというか、レクサプロの有効性に大きな違いが出ました。
正確な情報を聞いたグループは、偽薬という説明を受けたグループの4倍の治療反応性を示したのです。
セロトニンに対するレクサプロの効果は、2つのグループで同等でした。つまり、同じように脳内でセロトニンは増加していました。
(セロトニントランスポーターの占有率で評価すると、両グループとも78%で差はありませんでした。)
—
この結果から、社会不安障害の症状の改善にはセロトニンが増えるだけでは不十分で、他の何かが必要であるということが示唆されます。
そこでドーパミンに注目します。
脳内のドーパミンについて調べてみると、正確な情報を聞いたグループでは、線条体と視床で内因性ドーパミンの増加があり、偽薬という説明を受けたグループでは逆に減少していました。
(実際にはドーパミントランスポーターの非遊離性受容体結合能 (non-displaceable binding potential: DAT BPND)を調べました。)
—
この研究から示唆されるのは、SSRI(レクサプロ)の治療効果にドーパミン神経伝達が極めて重要な関与をしていると言うことです。
そして脳内ドーパミンの増減には、薬に対する期待の効果が大きく影響しています。
つまり、この薬は効くと信じることは報酬期待に繋がり、報酬処理を行う線条体のドーパミン神経系を活性化します。
正確な薬の情報は、服用する人の薬に対する期待を高め、より楽観的な認知をもたらし、ドーパミン依存性の報酬機能を高めることが予想されます。
逆に、この薬は偽薬で効きませんと言われた人では、報酬期待の減少などにより脳内報酬系に逆の効果がもたらされると考えられます。
—
参考
社会不安障害の人は、健常対照者と比較して、SERTとDATの発現および共発現が増加しています。
参考
Expectancy effects on serotonin and dopamine transporters during SSRI treatment of social anxiety disorder: a randomized clinical trial
Translational Psychiatry volume 11, Article number: 559 (2021)