ICD-10でF40.1にコードされる社会恐怖(Social phobias)は、DSMでは社交不安症(SAD:Social Anxiety Disorder)と呼ばれます。
社交不安症の中核的な症状は、他者から注目されることに対する恐れで、ふつう社交場面を回避するようになります。
社交不安の症状が人前での食事、人前での発言、異性と会うことなどに限局している場合もあれば、ほとんどすべての社交状況に及ぶ場合もあります。
人前で嘔吐することへの恐れが中心となる場合があり、また、他者と直接目と目が合うことに対する恐れが中心となる場合もあります。
通常は、低い自己評価と、他人から批判されたり、恥をかかされたりすることに対する恐れが根底にあります。
赤面、震え、発汗、言葉に詰まる、凝視などが、他者から否定的な評価を受けることを恐れます。
社交不安症の人は、十分に主張できなかったり、過度に従順であったり、話すことを控えたりすることがあります。
また、ぎこちなく硬い姿勢で、十分に視線を合わさず、極端に小さい声で話すことがあります。
内気で、引きこもりがち、男性では結婚が遅れがちなことが多くあります。
パーティーに出席する前の飲酒など、薬物による自己治療がよく見られます。
治療には認知行動療法、曝露療法、薬物療法を用いますが、ここでは薬物療法について説明します。
社交不安症(SAD)の治療に用いる薬物は、SSRI、SNRI、βブロッカー、ベンゾジアゼピン系薬です。
βブロッカーとベンゾジアゼピンは、基本的には必要時に頓服で使用します。
βブロッカーでは、インデラル(プロプラノロール)、ナディック(ナドロール)などβ1非選択性でISAのないものや、テノーミン(アテノロール)などβ1選択性でISAのないものが用いられます。ただし、βブロッカーは、 社交不安症に対する保険適応はありません。
ベンゾジアゼピンを用いる場合は依存性に注意が必要です。リボトリール(クロナゼパム)などが用いられますが、やはり社交不安症に対する保険適応はありません。
慢性疾患である社交不安症の長期マネージメントにはSSRIを用いますが、我が国で社交不安症(SAD)に保険適応のあるSSRIは、レクサプロ(エスシタロプラム)、ルボックス・デプロメール(マレイン酸フルボキサミン)、パキシル(パロキセチン)の3剤のみです。
SSRIの代わりにSNRIを用いることも可能ですが、保険適応はありません。
英国国立医療技術評価機構(NICE)ガイドラインでは、第一選択薬はSSRI(エスシタロプラムまたはセルトラリン)です。
NICEの第二選択薬は 、別のSSRI(フルボキサミンまたはパロキセチン)もしくはSNRI(ベンラファキシン)となっています。
参考