イフェクサーSR(ベンラファキシン)

ミルタザピンとの組み合わせがカリフォルニア・ロケット燃料(California rocket fuel)と呼ばれるイフェクサーについて。カリフォルニア・ロケット燃料とは、その強力なセロトニン・ノルアドレナリン効果を言いますが、躁転などには注意が必要です。

以下簡単に特徴を示します。(参考症例

セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)に分類される抗うつ薬です。

本邦での適応はうつ病・うつ状態のみですが、米国FDAはうつ病・全般性不安障害・社交不安障害・パニック障害の治療薬として承認しています。

適応外では、成人ADHD、線維筋痛症、糖尿病性神経障害、疼痛、ほてり、片頭痛予防、心的外傷後ストレス障害、強迫性障害、月経前障害、カタプレキシーなどに有効であると考えられています。

ノルアドレナリン再取り込み阻害により、前頭前皮質のドパミンを増加させる効果もあると考えられています。

不安障害に対する効果は、ずっと遅れて(2か月以上かかって)現れる場合があります。

併用する場合は、ミルタザピン(リフレックス)、ブプロピオン(未発売)、レボキセチン(未発売)、ノルトリプチリン(ノリトレン)、デシプラミン(未発売)、マプロチリン(ルジオミール)、アトモキセチン(ストラテラ)などが良いとされています(スタールによる)。

よく見られる副作用として、吐き気、眠気、口渇、頭痛、性機能障害、血圧上昇などがあります。

希ながら重篤な副作用として、けいれん発作、躁転、希死念慮などがあります。

低用量でセロトニン増加、高用量でセロトニン・ノルアドレナリン増加作用を示すので、効果不十分な場合は二重効果を考えて増量を試す価値があります。

中止する場合は、突然の中断ではなく漸減します。

遷延性うつ病、非定型うつ病に対して優位性があると言われています(スタール)。

吐き気を催しやすい人、高血圧の人、心疾患の人には使いにくい薬です。

結合親和性だけでは説明できない効果があります。その理由の一部は、活性代謝産物の存在と低い蛋白結合性で説明されています。

18才未満の人への投与は控えるべきです。有効性が確認されていないだけでなく、自殺念慮・自殺行動の増加が報告されています。

吐き気の副作用が強く、使いにくい薬ではありますが、治療抵抗性のうつ病では使ってみたい、使ってよい薬であると思います。慎重に副作用をモニターしながらですが。

 


以下はイフェクサーの概略です。

イフェクサーは、1981年米国ワイス社によって発見された最初のSNRIです。米国への導入は1993年で、当初は即放錠としてFDAの認可を得ました。その後1997年に徐放カプセル剤のイフェクサーXRがFDAの認可を得て、2009年にワイス社がファイザー社に取り込まれるまで、即放錠と徐放カプセルの両者が併売されました。現在ファイザー社は徐放カプセルのみ製造しています。その理由は、徐放カプセルが1日1回の服用で済むこと、即放錠と比べて嘔気の副作用が少ないことのようです。

我が国では、イフェクサーSRの名称で徐放性カプセルが2015年12月より販売開始となりました。

 

構造式

 

 

適応(効能又は効果)
うつ病・うつ状態

 

用法及び用量
1 日 1 回食後に経口投与
初期用量 37.5 mg、1 週後より 75 mg(225 mg を超えない範囲で適宜増減)

用法及び用量に関連する注意
増量により不眠症状、血圧上昇等のノルアドレナリン作用があらわれるおそれがある。
肝機能障害のある患者では、血中濃度が上昇し副作用が発現しやすくなるおそれがある。

 

作用機序イメージ( in vitro )インタビューフォームより

 

薬理効果
ベンラファキシンとその活性代謝産物であるO -脱メチルベンラファキシン(ODV)が薬理効果を発揮する。
ベンラファキシンは、セロトニンとノルアドレナリンの取り込み阻害作用と弱いドパミン取り込み阻害作用を有す。
活性代謝産物ODVは、ベンラファキシンと同等のセロトニン・ノルアドレナリン取り込み阻害作用とベンラファキシンよりさらに弱いドパミン取り込み阻害作用を有す。

 

血中濃度の推移

ベンラファキシン:
最高血中濃度到達 6 時間
半減期約9時間

ODV:
最高血中濃度到達  8~10 時間
半減期約12時間

 

食事の影響
食事による薬物動態への影響はみられないが、空腹時より食後の方がより高い安全性が期待される。

 

代謝
主として CYP2D6、一部 CYP3A4 で代謝される。

(CYP 阻害:CYP2D6に対して弱い阻害作用を示す)

 

禁忌(次の患者には投与しないこと)
1 本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
2 モノアミン酸化酵素(MAO)阻害剤を投与中あるいは投与中止後2週間以内の患者
3 重度の肝機能障害(Child-Pugh分類C)のある患者
4 重度の腎機能障害(糸球体ろ過量15 mL/min未満)のある患者又は透析中の患者

 

副作用 3%以上のもの(国内臨床試験 1255 例)

悪心 33.5%
腹部不快感(腹痛、膨満、便秘等を含む) 27.2%
傾眠 26.9%
浮動性めまい 24.4%
口内乾燥 24.3%
頭痛 19.3%
不眠症 16%
動悸 13.2%
肝機能検査値異常(ALT(GPT)・AST(GOT)・γ-GTP・LDH・Al-P・血中ビリルビンの上昇等) 10%
嘔吐 8.7%
感覚器調節障害 8.5%
排尿困難 6.6%
鼻咽頭炎 6.3%
発汗(寝汗を含む) 6.2%
無力症(疲労、倦怠感を含む) 5.7%
下痢 5.3%
体重減少 5.3%
血液 4.5%
食欲減退 4.3%
血圧上昇 3.9%
過敏症 3.7%
頻脈 3.7%
異常感覚(錯感覚、感覚鈍麻等) 3.6%
血中コレステロール増加 3.1%

 

 

IC50(50%阻害濃度)

ベンラファキシン
5-HT:0.19~0.21 μmol/L
NA:0.64~0.72 μmol/L
DA:2.8 μmol/L

ODV
5-HT:0.18~0.20 μmol/L
NA:1.16 μmol/L
DA:13.4 μmol/L

 

結合親和性

ベンラファキシン
(トランスポーター、Ki [nM])
SERT 82
NET 2480
DAT 7647
(受容体、Ki [nM])
5-HT2A 2230
5-HT2C 2004
5-HT6 2792
α1A >1000

セロトニン 5-HT 1 、5-HT 1A 及び 5-HT 2 受容体、アドレナリンα 1 、α 2 及びβ受容体、ヒスタミン H 1 受容体、非選択的ドパミン受容体、ドパミン D 1 及び D 2 受容体、ムスカリン受容体、オピオイド受容体、 N -メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)受容体、NMDA 受容体フェンサイクリジン(PCP)結合部位及び GABA A 受容体ベンゾジアゼピン結合部位に対して結合親和性を示さなかった。(IFより)

ODV
セロトニン 5-HT 2 、アドレナリンα 1 、ヒスタミン H 1 、ドパミン D 2 、ムスカリン、オピオイド、NMDA 及び NMDA 受容体 PCP結合部位に対して結合親和性を示さなかった。(IFより)

 

2020年7月9日 | カテゴリー : | 投稿者 : wpmaster