正常と異常のスペクトラム

近年精神医学の分野では、スペクトラム(連続体)という言葉が多用されます。
今回は統合失調症について、正常と異常のスペクトラムを考えます。

アメリカ精神医学会の診断基準であるDSM-5では、統合失調症をその類縁疾患を含めたスペクトラム(連続体)という概念で記述しています。

これは、カテゴリーで分類される疾患単位というものが、実際は明確に境界分けされる性質のものでなく、多くは境界のないスペクトラム(連続体)として分布しているという知見に基づいています。

ここではそのような疾患単位における横のスペクトラムについてではなく、正常と異常という縦のスペクトラムについて考えてみます。

統合失調症の中心的な症状は、妄想・幻覚・思考と集中力の障害・意欲の欠如とされています。(APA)

このうち、妄想・幻覚という症状は、一般人口においてどの程度の頻度で見られるのでしょうか。

この分野ではいくつかの研究が公表されています。

2015年に発表された、18の国の3万1261人を対象にした研究では、調査人口の5.8%が生涯に1度以上の精神病的異常体験を持ったと報告されています。

異常体験の中では、幻覚が妄想よりもずっと多く、おのおの5.2%(幻覚)と1.3%(妄想)でした。

生涯有病率1%と言われる(最近の報告では0.7%)統合失調症と比べて、かなり多い比率となっています。

これは、疾患として診断されるには至らないが、これらの症状を体験する人が一般人口には一定程度存在することを示しています。

つまり、健常とされる一般人口から統合失調症と診断される人たちに至るまで、スペクトラム(連続体)として分布している可能性を示していると思われます。

また、この研究では以下のことが示されています。

異常体験は(中・低所得国よりも)高所得国に多い

異常体験は未婚、未就労、低世帯収入と関連する

女性では妄想よりも幻覚の体験が遥かに多い

かつてこのような異常体験は、将来における統合失調症発症の危険因子であるという点にのみ焦点が当てられてきました。

しかし最近の研究では、このような異常体験が、統合失調症のみならず、不安、うつ、薬物依存など幅広い精神疾患の発症にリンクしていることが示されています。

異常体験はまた、自殺念慮・自殺企図の危険性を増すという点に注意が必要です。

Psychotic experiences in the general population: a cross-national analysis based on 31,261 respondents from 18 countries

2019年7月9日 | カテゴリー : 症状 | 投稿者 : wpmaster