周産期のうつ

周産期とは、お産の前後の時期を示す言葉で、一般には妊娠22週から産後7日までを指します。( WHO)

周産期に生じたうつであっても、その経過と症状が通常のうつと変わらないため、通常と同じ診断基準で診断されます。

アメリカ精神医学会の診断基準であるDSM-5では、妊娠中~産後4週以内に始まった気分障害(うつ病と双極性障害)を「周産期発症」として特定しています。

周産期になぜうつ病が発症しやすいのか、原因はよく分かっていませんが、体内のホルモン変化とストレスが影響しているのであろうと考えられています。

周産期うつの治療は、非常に重要です。自殺の危険性が潜んでいるからです。

たとえば周産期に希死念慮を抱く女性の割合は想像以上に多く、ある調査では不安症やうつ病の既往をもつ女性の16.9~33.0%が周産期に希死念慮を抱いたと報告しています。

そういう意味で、現在うつ状態にある女性や以前うつ状態を経験した女性では、周産期におけるうつ状態の評価はとても重要です。

周産期のうつ状態スクリーニングと重症度の評価には、10項目の質問からなるエジンバラ産後うつ病自己評価票(EPDS)や、9項目の質問からなるPHQが有用であるとされています。

分娩の前
妊娠女性のうつ治療では、軽度から中等度のうつ状態は、投薬によらず精神療法での治療が可能な場合があります。この時期、妊婦は胎児に対する影響を心配して薬を忌避する傾向がありますので、精神療法という選択肢の存在は非常に重要です。

認知行動療法と対人関係療法が、支持的精神療法などよりも有効であると考えられています。

投薬治療は、治療を行うことによるリスクとベネフィット、治療を行わないことによるリスクとベネフィットの両者を慎重に検討し、個々の薬物の持つ特性を十分に理解して、妊婦及びその家族に十分説明した上で実施するべきです。

投薬の判断で最大に重要な点は、自殺の危険性が迫っているのか、精神病性の異常が認められるのか、と言う点です。

これらが認められた場合は、躊躇無く積極的な投薬治療が必要です。妊娠初期であれば、可能な限り気分安定薬としての抗てんかん薬は避けるべきです。(デパケンとテグレトール)

これら(自殺の危険または精神病性の異常)が認められない場合には、妊婦の治療歴と症状の強さにより、対応が異なります。

中等度から重度の症状を有する場合であっても、向精神薬を服用していない妊婦で、投薬に拒否的であれば、まずは精神療法が選択されます。ただし、以前に精神療法が有効でなかった場合には投薬治療の必要性を説明することになります。

向精神薬で治療中の妊婦で、薬の中止を考えている場合には、精神療法の実施と向精神薬の再評価を行います。

今妊娠していないが、今後妊娠する予定の女性の場合
自殺の危険または精神病性の異常が認められれば、投薬治療が必須です。これらが認められない場合には、症状の強さによって対応が異なります。

中等度から重度のうつ状態がある場合、適切な期間適切な量の薬物治療を行い、症状が安定するまでは妊娠を控えます。

症状が軽度から中等度の場合には、治療歴が半年未満か半年以上か、複数回のうつ病エピソードがあったのか無かったのか、今まで精神療法を受けたことがあるのか無いのか、精神療法を受けたことがある場合はそれが有効であったのかなかったのか、などにより対応が異なります。

分娩の後
分娩後のうつ状態は、「マタニティ・ブルー」と「産後うつ」に分けられます。

マタニティ・ブルーは、最大50%の女性に生じるとされる一過性の情動の高ぶりです。分娩後2日~14日に起こり、2週間以内に収まります。休息と社会的なサポートが症状消失に大きく貢献します。

産後うつは、DSM-5の基準では分娩後4週以内に発症したものとして定義されますが(周産期発症のうつ病)、臨床的には産後1年以内に発症したうつ病を意味する場合が多くあります。(Sharma)

うつ病や不安障害の既往、精神疾患の家族歴、よくない夫婦関係、貧弱な社会的サポート、分娩前1年間における生活上のストレスなどが産後うつの発症に影響します。

産後1年以内に発症したうつ病という定義に従えば、分娩女性の15%が産後うつに罹患するという報告があります。(Gaynes)

注意深い診察によって産後うつを適切に評価し、遅れることなく治療を開始することは極めて重要です。母親が支障なく乳児の養育を行うことができるため、それにより児の健全な発育が確保されるためです。

治療にはSSRIが勧められています。また、認知行動療法や対人関係療法などの精神療法も有効とされます。

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