女性と不安

女性の不安を診療する時、その女性がライフステージのどの段階にいるのかを考える必要があります。

女性は、思春期、青年期、妊娠、産後、閉経期と、体内のホルモン状況が明らかに異なる時期を経て人生を進めていきます。そして、そのホルモン状況を考えなければ、正しい治療が困難だからです。

女性では、体内のホルモンが変動する時期に不安障害が発症したり増悪することが多く、具体的には思春期、月経が始まってからは月経の前、妊娠中、産後、更年期などの時期に不安障害が多く見られます。

思春期

思春期に女性では月経が始まり(初潮)、卵巣から性ステロイドホルモンが月ごとの周期をもって分泌されるようになります。

思春期前の時期、不安障害はむしろ男児に多いのですが、思春期以降は女児に不安障害が多く見られるようになります。

それは、性ホルモンのエストラジオールやプロゲステロンが神経活性をもっていて、中枢神経系のいくつかの受容体に影響を及ぼすからです。

生殖可能年齢の女性

月経周期は、卵胞期と黄体期からなります。その境は排卵です。排卵前の卵胞期には主に卵胞ホルモンが分泌され、排卵後の黄体期に黄体ホルモンが上昇し始めて、20倍以上にも増加します。

生殖可能年齢の女性の8割が、黄体期に何らかの不調を訴えます。また2割の人はPMSを経験し、最も重篤な状態であるPMDD(月経前不快気分障害)を経験する女性も5%程度いると推定されています。

妊娠

妊娠中、卵胞ホルモンと黄体ホルモンは急激に増加します。そして出産後の数時間で急速に減少します。このようなホルモン環境の変化は、妊娠中に不安障害や産後のうつを引き起こしやすくなります。

一部の研究は、妊娠中の不安障害が早産や低出生体重をもたらすことを示唆しています。

更年期

更年期には、卵巣からのホルモン分泌が不規則になり、月経は不規則になります。閉経期への移行とともに不安は高まり、その後軽減していきます。あまり不安を感じることの少ない女性であっても、閉経期には不安症状が強くなることが分かっています。

更年期の女性を対象とした研究では、ほてりの症状と不安症状とに強い関連があることが示されています。


 

女性が不安障害を発症する背景

ライフステージ各時期のホルモン変動は、すべての女性に起こります。しかし、不安障害を発症するのは一部の女性です。

特定の女性がホルモンの変動に対して脆弱になるのは、何らかの生物学的な要因が関与している可能性があります。

思春期になると、エストラジオールやプロゲステロンといった神経活性をもった卵巣ホルモンの月ごとの変動が始まるとともに、

脳の中では、神経細胞の髄鞘化、連結、刈り込みといった脳のリモデリングが猛スピードで行われていきます。

このリモデリングにより、神経活性ステロイドやストレスホルモンに対する脳の反応性が決められていきます。

つまり、卵巣から分泌される神経活性ステロイドは、女性の不安障害の発症に大きな影響を及ぼしますが、それに対する脳の反応性がこの思春期の時期にプログラムされていくのです。

不安障害に関連する神経活性ステロイドホルモンの中でも、プロゲステロンが代謝されて作られるアロプレグナノロン(ALLO)は特に重要です。

アロプレグナノロン(ALLO)はベンゾジアゼピン同様、ギャバA受容体の強力なアゴニストとして作用し、強い抗不安特性を持っています。

月経周期全体にわたるアロプレグナノロンの変化が、女性の不安や情動障害の重要な原因として指摘されています。