扁桃体を中心とした恐怖の回路は、進化の過程で動物や人が獲得した脅威に対する防御機構です。
恐怖の回路は生存に不可欠ですが、その調節障害はヒトの精神疾患の発生に大きな役割を果たします。
恐怖の回路において、恐怖処理に重要な役割を果たすのが扁桃体です。
扁桃体は、側頭葉の内側にあるアーモンドの形をした神経核の集まりです。
扁桃体は恐怖の獲得だけでなく、快不快などの一般的な感情の意味付けをするなど、人の情動の処理に重要な役割を果たしています。
扁桃体に調節障害が起こると、うつ病、PTSD、社会不安障害、種々の恐怖症等、多くの精神疾患の症状がもたらされると考えられています。
人が恐怖刺激に接したとき、扁桃体は活動性を増大します。
健常人を対象とした研究では、扁桃体の反応性は特性不安と相関しています。
(特性不安については、「不安と恐怖」で説明しています)
研究によれば、予期不安が強いほど扁桃体は大きく反応し、反応の大きさは特性不安の程度と正の相関がありました。
不安障害の人たちでは、ネガティブな刺激に対して、扁桃体が過剰に興奮します。
例えば社会不安障害の人では、強い感情刺激に対して健常人よりも大きな扁桃体反応を示します。そして、社会不安の程度が強いほど扁桃体反応も大きくなります。
現在社会不安障害は、社会的刺激や状況の処理がうまく出来ないだけでなく、一般的な感情処理においても機能障害を示すという結論に至っています。
社会不安障害の人が抗うつ薬治療により、例えば人前で話すときの症状が軽減したときには、扁桃体の反応性も低下している事が示されています。
PTSDでは、トラウマ関連の刺激に対して扁桃体が過剰に反応します。PTSDの重症度は、扁桃体の反応性の大きさに比例します。また、治療前に扁桃体の反応が大きい人たちでは、反応が小さい人たちに比べて治療がうまく行かないことが多いことも示されています。
特定恐怖症、パニック障害、強迫性障害などの不安障害においても、刺激に対して扁桃体が過剰に興奮することが観察されています。
(扁桃体の興奮を鎮める薬物療法については、項を改めて説明致します。)