防衛機制の幼児性を考えてみます。
まず防衛機制を大雑把に説明すれば、自分自身の心を守るために発動されるしくみと言えます。英語のデフェンス・メカニズムの方が直感的に理解しやすいのではないでしょうか。
フロイトの提示したエリザベートの例を見てみましょう。
エリザベートは原因不明の下肢痛のため歩行ができなくなった24歳の女性です。
エリザベートの下肢痛は、密かな恋心を抱く義兄と2人切りで散歩をした場所に、再び一人で訪れた頃から始まりました。
義兄と結婚して幸せになりたいという、たわいもない願いが、姉の死によってにわかに現実味を帯び始めます。義兄の妻になれるかもしれない、なりたいという本能的な願望と、姉の死をよろこんではならないという道徳意識に挟まれて、エリザベートは苦悩します。
苦悩の中でエリザベートは、願望を無意識の中に閉じ込め、意識の外に追いやることで自分の心を守ろうとします。(抑圧)
その後、フロイトの催眠によって、エリザベートが秘密の告白をすることによって、脚の痛みは改善していきます。(フロイトのヒステリー研究)
(ただし、エリザベート自身は次のように自分の娘に語ったと言います。「ひげを生やした神経質そうな若い男 (フロイト) が私の元にきた。」「彼は私と義兄が恋に陥っていると何度も説得しようとした」「でもそれは真実じゃないんだ」)
さて、人は誰も成長への衝動を持ち、それが欲求となって現れますが、社会制約上すべての欲求が叶えられるわけではありません。
叶えられない欲求は、不満、不快、恐怖、不安などを生じさせ、心を不安定にします。そのような状況で、心に安定をもたらすために働くメカニズムが防衛機制です。
結婚を意識してはいるが自信が無いという女性の防衛機制を見てみます。
結婚したいという思いは最初から自分にはない。(否認)
結婚したいという思いを世間から悟られないように、結婚を遅くする。(反動形成)
結婚に踏み切れないのは相手が優柔不断だから。(投影)
相手が自分を嫌うから相手を好きになれない。(投影)
(自分が相手に感じる感情を、相手が自分に向けていると思う)
相手が自分を好きだから、自分も相手を好きになる。(投影)
(投影は自己欺瞞のメカニズムとも言えます。)
これらの防衛機制は、乳児期からすでに認められるものですが、幼児期までに不安にさらされることが多かった子どもは、成人期になっても幼稚な防衛機制を働かせることがあります。(アンナ・フロイト)
不安に満ちた生育環境が発達を阻害し、幼児期に身につけた未熟な防衛機制が固定化するためです。成人期になって幼稚な防衛機制を多用することは、社会的な不適応に繋がります。