睡眠には脳波で区別できる2つの状態があります。レム睡眠とノンレム睡眠です。
レム睡眠は夢を見る睡眠で、寝ているのに脳は起きているため逆説睡眠とも言います。
ノンレム睡眠は、脳波の波形によって1~4の4つのステージに分けられます。ステージが進むほど深い眠りとなり、ステージ3、4ではデルタ波が見られ徐波睡眠とも呼ばれます。
年齢が進むと、ステージ3,4の睡眠が著明に減少しますが、レム睡眠の比率はあまり変わらないため、夜間の覚醒時間が増加します。加齢に伴う正常な変化ですが、昼寝や不眠の訴えの原因となることがあります。
レム=REM=Rapid Eye Movement=急速眼球運動
不眠の治療
愛する人との別離に伴う悲哀反応など急性の不眠には、短期の薬物療法が適切であると言われます。しかし、一般的には心理学的な基礎に基づいた非薬物治療をまず試みるべきであるとされています。
特に高齢者においては、薬物の副作用を避ける意味でもまずは非薬物療法を試すべきでしょう。加齢に伴い睡眠はより浅く、より容易に中途覚醒も起こります。身体合併症も多くなり、それがまた不眠の訴えにつながります。安易な睡眠薬使用による副作用に注意が必要です。
睡眠衛生
1.眠くなった時にだけベッドに行く(布団に入る)。
2.ベッド(布団)は、睡眠のためだけに使用する。
3.ベッド(布団)の中で20分以上眠れなければ、ベッドを出る。
また眠くなった時にだけベッドに戻る(布団に戻る)。
4.睡眠時間がどんなに長くても短くても、必ず決まった時間に起きる。
5.カフェイン摂取と喫煙を中止する。少なくとも夕方以降は。
6.日々の運動習慣を作る。
7.アルコールを避ける。アルコールは睡眠の連続性を中断する。
8.夜は水分摂取を制限する。
9.リラックス法を学ぶ。
10.就寝習慣、就寝時間を確立する。
(CMDT 2020)
睡眠衛生で効果が不十分な場合に、薬物療法が考慮されます。
ロラゼパム 0.5mg、ゾルピデム 5mg(特に女性は5mgまで)、エスゾピクロン 2~3mg(高齢者は1mgまで)、また中途覚醒にゾルピデム 2.5mg、などが用いられます。
重要なことですが、短時間型の睡眠薬(ハルシオン、ゾルピデム、エスゾピクロンなど)には健忘の症状が出ることがあります。
さらに、マイスリー(ゾルピデム)、ルネスタ(エスゾピクロン)については、米国FDAがその個別名を挙げて最大級の警告(枠囲み警告)を発しています。 睡眠時歩行、睡眠時運転などの睡眠時異常行動により、生命の危機を招く事態がありえると言うものです。
https://www.fda.gov/drugs/drug-safety-and-availability/fda-adds-boxed-warning-risk-serious-injuries-caused-sleepwalking-certain-prescription-insomnia
このようなことも考慮し、ベンゾジアゼピン作動性睡眠薬は、1~2週間の短期使用が望ましく、長くとも4週以内に制限すべきであると言えます。
抗ヒスタミン薬である、ジフェンヒドラミン(商品名レスタミン、市販はドリエル) 25mg、ヒドロキシジン(商品名アタラックス) 25mgも、睡眠薬として使用可能です。依存性もありません。ただしその抗コリン作用には注意が必要で、特に高齢者では錯乱、認知機能低下、尿閉などが生じやすくなります。
抗うつ薬のトラゾドン 25mg(~適宜)も睡眠薬として使用可能です。依存形成もありません。ただし、希ではあるものの緊急を要する副作用として持続勃起症が起こる可能性があります。
メラトニン作動薬のロゼレム(ラメルテオン)も、依存性、耐性がなく、睡眠導入と睡眠の持続に有効です。
オレキシン受容体拮抗薬のベルソムラ(スボレキサント)も、睡眠導入と睡眠維持に有効で、依存性・耐性がありません。
ベルソムラに続き、第二のオレキシン受容体拮抗薬である「デエビゴ」が令和2年7月6日新発売となりました。
望ましい薬物プロフィールを持った期待できる睡眠薬です。(2022/02/18 追記)