サインバルタは米国イーライリリー社が合成したセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害剤(SNRI)です。
米国及び欧州に2004年に、日本には2010年に導入されました。
カプセル剤で、カプセル内容物には腸溶性コーティングが施されています。
効果について
本邦での適応症は、うつ病・うつ状態 、糖尿病性神経障害・線維筋痛症・慢性腰痛症に伴う疼痛です。
本邦では適応症となっていない、以下の症状・障害に対しても、一定の有効性が認められています。
非定型うつ病の過眠
全般性不安障害
社会不安障害
パニック障害
PTSD
強迫性障害
ナルコレプシーで見られるカタプレキシー(情動脱力発作)
帯状疱疹後神経障害
女性の腹圧性尿失禁
サインバルタによるうつ病の寛解率は、6 週で 16.6%、52 週で 67.1%、52 週で治療終了した場合には 54.0%でした。(治験)
サインバルタはセロトニンとノルアドレナリンの再取り込み阻害作用に加えて、弱いドパミン再取り込み阻害作用を有すると想定されています。
飲み方
うつ病・うつ状態に対する用法は、 1 日 1 回朝食後に40 mg です。飲み始めは 1 日 20 mg より開始して、1 週間以上の間隔を空けて 20 mg ずつ増量します。最大で1 日 60 mg まで増量可能です。
1日40mg服用する根拠は、セロトニントランスポーターの80%占有率が、40mgの投与で達成されるためとされています。
朝1回の服用とされていますが、実際には朝でも夕でも、また、食事の前でも後でも、薬物動態に及ぼす影響はあまりありません。特に朝食後に限定する意味は少ないと思われます。
服用の中止に際しては、離脱症状の出現に注意が必要です。なるべくゆっくりと、2週間以上かけて中止することが勧められています。(例:20mg/週のペースで減量する)
離脱症状としては、不安、焦燥、興奮、浮動性めまい、錯感覚(電気ショック様感覚を含む)、頭痛、悪心及び筋痛等などが報告されています。
離脱症状の出現するメカニズムは不明ですが、SSRI同様に、長期のサインバルタ投与によりセロトニン受容体の脱感作が起こり、投与中止により一時的なセロトニン不足が起こるのではないかという仮説が述べられています。
禁忌
禁忌として、本剤に対する過敏症、MAO阻害剤投与中あるいは投与中止後 2 週間以内、高度の肝機能障害(肝不全)、高度の腎機能障害、コントロール不良の閉塞隅角緑内障が挙げられています。
禁忌に挙げられている肝不全とは、重篤な肝機能障害を基礎として、高度の黄疸・肝性脳症(肝性昏睡)・腹水(浮腫)を来す症候群 です。
禁忌に挙げられている高度の腎機能障害とは、クレアチニンクリアランス値が 30 mL/min 未満をいいます。
コントロール不良の閉塞隅角緑内障のコントロール不良とは 、治療によっても眼圧等症状が安定しないことをいいます。
サインバルタ(デュロキセチン)のノルアドレナリン再取り込み阻害作用によって散瞳を生じることがあり、コントロー ル不良の閉塞隅角緑内障の患者では症状が悪化し失明するおそれがあるためです。
服用に際しての注意と副作用など
自動車の運転について
運転禁止とはなっておりませんが慎重な対応が求められています。特に服用によって、めまい、眠気や睡眠不足等の体調不良を自覚した場合は、自動車運転等を絶対に行わないようにしてください。
妊娠時
米国FDAの妊娠カテゴリーC に該当します。よって、 潜在的な利益が胎児への潜在的危険性よりも大きい場合にのみ使用することとされています。
カテゴリーCとは、「動物における生殖毒性試験では、胎児に催奇形性、胎児毒性、その他の有害作用があることが証明されており、ヒトでの適切にコントロールされた研究が実施されていないもの。あるいは、ヒト、動物共に試験は実施されていないもの。」です。
副作用など
副作用の主なものは、悪心、傾眠、口渇、頭痛、便秘などです。
高血圧にも注意が必要です。サインバルタは用量依存的に血圧上昇を招きます。よって血圧のモニタリングが必要です。
血圧上昇はノルアドレナリン再取り込み阻害作用に由来します。
肝機能障害があらわれることがありますので、適宜肝機能検査(AST、ALT、γ-GTP 及び総ビリルビン等)を行うこととされています。
前立腺肥大症等排尿困難のある患者 はノルアドレナリン再取り込み阻害作用により症状が悪化することがあります。
特に高齢者において、低ナトリウム血症、抗利尿ホルモン不適合分泌症候群 (SIADH)が起こることがあります。
アカシジアが起こることがあります。
薬物動態など
服用後およそ7時間で最高血中濃度に達し、半減期は12(11~15)時間程度です。
代謝には、CYP1A2 及び CYP2D6 が関与し、また、CYP2D6 を阻害するとされています。また、臨床的に意味のある活性代謝産物は存在しません。
セロトニントランスポーター、ノルアドレナリントランスポーター以外の脳内各受容体への結合能は非常に弱く、特異的にセロトニンとノルアドレナリンの取り込み阻害することが示されています。
前頭前皮質ではドパミントランスポーターの発現が少なく、ノルアドレナリントランスポーターがドパミンの再取り込みも担っているため、サインバルタ(デュロキセチン)は、前頭前皮質においては弱いながらもドパミンの再取り込みを阻害します。
NMDA受容体に対する阻害作用が想定されています。