カタプレスはドイツのベーリンガー・インゲルハイム社が1966年に開発したα2受容体刺激薬です。日本には1970年に市場導入されました。
開発時より、もっぱら高血圧治療薬として使用されてきましたが、近年その精神科領域における作用と臨床的有効性が注目されています。
主作用はα2受容体の刺激です。これにより交感神経の緊張が抑制されます。(そして、交感神経がリラックスすることで末梢血管が拡張し、血圧が下がります。)
我が国における適応症は、各種高血圧症 (本態性高血圧症,腎性高血圧症)です。精神科領域の適応はありません。高血圧症以外に使用する場合は適応外使用になります。
添付文書による用法:1回75~150μgを1日3回服用します。また重症高血圧症では、300μgを1日3回、計900μg( = 0.9mg)まで服用することが認められています。
参考に米国での用法を示します。
初回投与量として、 0.1mg 錠(=100μg)を 1 日 2 回 (朝および就寝時) 投与します。その後、 望ましい効果が発揮されるまで,必要に応じて,1 週間ごとに 0.1mg/日ずつ増量して、最適量を決めます。一般的な使用量は,0.2mg~0.6 mg/日の朝食後・就寝前の投与です。
薬物動態
1回300μg単回投与の場合、90分で血中濃度が最高となり、半減期は約10時間です。
禁忌は過敏症のみです。今までカタプレスを服用して、発疹や瘙痒等があらわれたことがある人は服用できません。
自動車の運転や危険を伴う作業は、(禁止ではなく)注意となっています。
主な副作用は口渇 、眠気・鎮静、めまい、倦怠・脱力感などです。
まれに幻覚や錯乱が現れると報告されています。
高血圧症以外に、以下のような例にクロニジンが有効であると考えられています。
ADHD
トゥレット症候群
チック
むずむず脚症候群
薬物依存離脱(アヘン、ニコチン、アルコールなど)
PTSD
運動障害(遅発性ジスキネジア、遅発性ジストニア)
褐色細胞腫
疼痛管理
片頭痛予防
重度の月経困難症
掻痒
下痢
更年期障害のほてり
以上のうち、ADHDについては、米国FDAがクロニジン徐放錠をADHD治療薬として承認しています。
ADHDにおけるクロニジンの作用メカニズムを簡単に見ておきます。下の図は、説明を読む際の参考にしてください(人を人たらしめる最も重要な脳の部位である前頭前皮質を示しています)。
ADHDの種々の症状は、前頭葉線条体回路の機能低下が関係すると考えられています。線条体におけるドパミン減少の関与が示されていますが、動物実験などからは、ノルアドレナリン異常がADHDの認知機能障害をもたらすと強く示唆されています。
クロニジンは、ADHDの多動性、衝動性、不注意に有効であることが示されています。
クロニジンは、シナプス前α2受容体を刺激して、アドレナリン神経系のトーンを弱めます。また、青斑核からのノルアドレナリン分泌を抑制することで、多動・衝動性の制御に寄与します。
前頭前皮質では、青斑核から投射されるノルアドレナリン神経が分泌するノルアドレナリンによって、ワーキングメモリー(作業記憶)や注意が調整を受けています。
ノルアドレナリンがα2受容体(より正確にはα2A受容体)に結合することで、認知機能が高まります。
シナプス前α2受容体(自己受容体)が活性化されると、前頭前皮質でのノルアドレナリン分泌が減少します。(多動衝動性の制御)
一方、同じ前頭前皮質で、シナプス後α2受容体(α2A受容体)をクロニジンが刺激することで、注意やワーキングメモリーなどの認知機能の改善が期待されます。
シナプス後α2A受容体が、背外側前頭前皮質(DLPFC)の活性化に関与していることは、ほぼ確実と考えられています。
付け加えて言えば、疾病やストレスなどにより、高レベルの脳内ノルアドレナリン濃度が持続すると、α1受容体刺激が遷延し、認知機能の低下が引き起こされる可能性があります。
参考
α2A受容体をより選択的に刺激するインチュニブ(グアンファシン塩酸塩)が、第三のADHD治療薬として我が国で保険適用されています。