うつ病で見られる症状には、抑うつ気分、易疲労性、思考力・集中力の低下、睡眠・覚醒・概日リズムの混乱、さらには免疫力の低下などがあります。
これらの症状の一部は、青斑核に起源をもつノルアドレナリン神経の変調に由来していると考えられます。
ある研究によれば、うつ病の人の青斑核ではチロシン水酸化酵素が増加している所見が認められています。この酵素はチロシンからドーパを作る酵素で、この酵素の増加は、ドパミン、ノルアドレナリンなどカテコールアミンの増加につながります。
さらに、うつ病の人の青斑核ではノルアドレナリン・トランスポーターの減少も示唆されています。(ノルアドレナリン・トランスポーターの減少は、ノルアドレナリン濃度の増加につながります。)
ノルアドレナリンの主要代謝物であるMHPGの濃度を調べた研究では、うつ病エピソードの回数・期間・症状の強さと、脳脊髄液中MHPGの濃度には、正の相関があることが示されています。
これは、うつ病エピソードの回数が多いほど、うつ病の期間が長いほど、うつ症状の強さが強いほど、ノルアドレナリンの代謝回転が多いことを示すものです。
同じ研究で、ドーパミン代謝産物ホモバニリン酸(HVA)と、セロトニン代謝産物5-ヒドロキシインドール酢酸(5HIAA)も併せて解析されていますが、この2つには相関は認められませんでした。(HVAはp値0.055と微妙ですが)
また、地域住民を対象とした別の調査で、高齢男性では唾液中のノルアドレナリン代謝物(MHPG)濃度と将来のうつ症状の強さに正の相関があることが示されています。
女性ではそのような相関は認められませんでした。
うつ症状の強さは「ベック抑うつ尺度」で測定されています。
さらに、いくつかの研究で、うつ病患者では青斑核および前頭前皮質でα2受容体の密度が増加していることが示されています。
α2受容体は抑制性の受容体で、受容体の刺激はノルアドレナリン神経の発火を減少させます。
つまり、うつ病患者でのα2受容体密度の増加は、高いノルアドレナリンレベルに対する代償反応である可能性があります。
このようにして、メランコリックなうつ病では、脳内のノルアドレナリンが(加えてグルタミン酸も)活性化され増加しており、これが持続的な不安と扁桃体の活性化につながると思われます。
症状は、覚醒系が最大になる朝に最悪になります。早朝覚醒や食欲不振がみられます。
逆に非定型うつ病では、過食と過眠がみられ、症状は夜に悪化します。
非定型うつ病では、その病因にトラウマを想定する必要がある場合があります。