幻聴

幻聴は主観的な訴えです。鼓膜に対する外的な音刺激がないのに、外からの音が聞こえる症状ですが、その中でも言葉として聞こえる幻聴(言語性幻聴)は病的な色彩が強くなります

精神医学の分野では、幻聴は統合失調症と対にして語られてきました。例えば、DSM-5より以前には、何十年にもわたってシュナイダーの一級症状が統合失調症診断の基本でした。

8つの一級症状(FRS)のうちの1~3は幻聴に関するもので、それぞれ、①自分の考えが言葉になって聞こえる考想化声、②「彼女は犯罪者だ」「そうだ彼女は悪い女だ」などの話しかけと応答の幻聴、③自分の行動の一つ一つについてコメントする幻聴、の3つです。

これらは、自我の解体という自我障害に関連する症状です。

DSM-5の出現により、シュナイダーの一級症状はその診断的価値が大きく低下しましたが、統合失調症の重要な側面である自我障害を反映する症状として、今なおその重要性は大きいと考えられます。

自我障害の評価に際しては、焦点を絞った慎重な臨床観察が必要ですが、シュナイダーの一級症状は極めて有益な情報を臨床家に与えてくれると考えられます。

このように、幻聴は統合失調症と強く結びついて語られてきました。おおよそ統合失調症患者の70%が言語性の幻聴を経験すると言われています。統合失調症の幻聴は侵入的です。自らの意図に関係なく、望まないのに聞こえます。また、ほとんどのケースで苦痛を伴います。

しかし、統合失調症以外でも、多くの疾患や状況で言語性の幻聴は経験されています。

例えば、PTSD、双極性障害、境界性パーソナリティ障害、うつ病、強迫性障害、認知症、パーキンソン病、てんかん、薬物依存などで、それほど希で無く幻聴が経験されます。(10~40%程度)

一般健康人口においても、報告によって異なりますが、5~9%程度の人が生涯に一度以上、幻聴を経験すると報告されています。(参考

寝付く直前や起きがけに起こる、また死別感情に付随して起こる、幻聴様の体験もまた、正常範囲のものであるとして受け入れられています。

ただし、一般健康人口にも一定割合の幻聴体験が認められるという調査・研究を評価する際には注意が必要です。「健康」であるという定義が一定でないからです。

幻聴が生じるメカニズムについては、いくつかの仮説が存在していますが、未だ定説はありません。

仮説の一つである、トラウマにまつわる幻聴発生のメカニズムを簡略化してご紹介します。

これは、トラウマ記憶というものが、不適切な形で、侵入的に、予期せぬ場面で、表在意識に出現しやすいという性質に基づくものです。

この仮説によれば、記憶システムによって、予期しない侵入的思考が意図せず活性化されると同時に、活性化された思考は記憶システムに対する抑制に失敗します。その状況下でトラウマ記憶が表在意識に出現すると、幻聴が知覚されるに至ります。

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