グランダキシンは、1976にハンガリーで合成・ 登録された抗不安薬です。
日本では持田製薬が開発に当り、自律神経失調症・更年期障害の薬として昭和60年(1985年)製造承認、昭和61年3月に発売となりました。
持田製薬は婦人科系に強い製薬会社で、迅速妊娠検査薬の代名詞であったゴナビスやゴナビスライド、婦人科超音波で圧倒的な強さを誇ったソノビスタの販売会社として有名です。
個人的にも、多くの思い出があり、郷愁あふれる製薬会社です。
婦人科系に特色のあった持田製薬の開発と言うことで、主として婦人科疾患に焦点が当たり、日本における保険適応は自律神経症状の改善とされました。
添付文書上の効能効果は、自律神経失調症、頭部・頸部損傷、更年期障害・卵巣欠落症状における頭痛・頭重、倦怠感、心悸亢進、発汗等の自律神経症状、となっています。
持田製薬が示したグランダキシンの特徴と有用性には、以下のように記載されています。
「本剤は主として自律神経系の高位中枢(視床下部)を介して交感及び副交感神経間の緊張不均衡を改善するが、末梢性にも自律神経系の過度の興奮を抑制することが認められている。」
「視床下部に作用し、自律神経系の緊張不均衡を是正する」
「頭痛・頭重、劵怠感、心悸亢進などの自律神経症状を幅広く改善する。」
用法用量は、1回50mg、1日3回の経口投与です。
臨床試験における有用性パーセンテージ(有効以上)は以下の通りでした。
自律神経失調症 67%
頭部・頸部損傷 64%
更年期障害 65%
卵巣欠落症状 45%
血中濃度の推移
1回150mg服用後の血中濃度推移は、1時間後に最高値となり、以後漸減して12時間後に血漿中から消失しました。半減期は47.1分と算出されたとメーカー文書に記載されています。
通常示されている半減期は6~8時間です。
代謝
主として CYP3A4で代謝されます。また、CYP3A4を阻害します。
禁忌・併用禁忌
本剤が CYP3A4を阻害することから、ロミタピドメシル酸塩の血中濃度を著しく上昇させるおそれがあるため、ロミタピドメシル酸塩との併用が禁忌とされています。
ロミタピドメシル酸塩は、ジャクスタピッドカプセルの商品名で販売されるホモ接合体家族性高コレステロール血症治療薬です。
副作用
臨床試験等で調査された8,803例での副作用を、頻度別に並べると次の通りです。(症状 、8803人中の人数、%の順です。)
眠 気 : 55人(0.62%)
悪 心 : 21人(0.24%)
腹 痛 : 18人(0.20%)
ふらつき : 16人(0.18%)
倦怠感 : 15人(0.17%)
口 渇 : 15人(0.17%)
食欲不振 : 14人(0.16%)
腹部不快感 : 12人(0.14%)
発 疹 : 12人(0.14%)
便 秘 : 11人(0.12%)
瘙痒感 : 10人(0.11%)
脱力感 : 9人(0.10%)
構造式
グランダキシンは構造上、ベンゼン環とジアゼピン環を持ちベンゾジアゼピンに分類されますが、窒素原子がジアゼピン環の2,3位に位置した2,3-ベンゾジアゼピンです。(下図の赤字はIUPAC命名法に従いました)
通常のベンゾジアゼピンは、窒素原子を1,4位に配した1,4-ベンゾジアゼピンです。
グランダキシンは、GABA受容体のベンゾジアゼピン結合部位に結合しないとされます。グランダキシンなどの2,3-ベンゾジアゼピンは、大脳基底核の線条体を中心とした部位に高い親和性を持ち、その結合部位はgirisopam結合部位と名付けられています。( girisopam もグランダキシン同様2,3-BZDです)
そのためグランダキシンは、通常の1,4-ベンゾジアゼピンがもつ、抗けいれん、鎮静、筋弛緩作用を発揮せず、抗不安効果をもたらします。
健忘や運動機能の障害も、引き起こさないとされています。
さらには、通常のベンゾジアゼピンと違って、依存性もないと考えられています。
グランダキシンの作用メカニズムの詳細は未だ不明ですが、その本態はホスホジエステラーゼ阻害(PDE阻害)にあるのではないかと考えられています。
グランダキシンは、PDE2,3,4,10に選択性をもった阻害作用を発揮します。その親和性は、PDE-4A1 (0.42 μM)、PDE-10A1 (0.92 μM)、PDE-3 (1.98 μM)、PDE-2A3 (2.11 μM)と報告されています。
これにより、脳内cGMP、cAMPを増加させ、それを介して効果を発揮するのではないかと考えられています。
通常のベンゾジアゼピンのように認知機能を障害したり、鎮静をもたらすことがなく、むしろマイルドな認知機能刺激活性を有するのは、このようなメカニズムによるのであろうと想像されます。
統合失調症における、認知機能低下、意欲低下を中心とした陰性症状の改善にも効果が期待されています。
現在グランダキシンは、日本、欧州、インドなどで販売されていますが、北米(アメリカ・カナダ)では販売されていません。グランダキシンの研究が進まない大きな理由は、アメリカで販売されていないためであろうと思われます。