住友製薬(現:大日本住友製薬)が創製し、年間2000億円を売り上げるブロックバスター、「ラツーダ」が6月に本邦でも発売されました。今回は、ラツーダを概観してみます。
まずは、特徴をわかりやすく箇条書きで羅列してみます。
双極性障害におけるうつ症状の改善に適応を持つ、3番目の抗精神病薬である。(他2剤は、オランザピンとクエチアピン)
体重増加に対して中立である。(体重増加が少ない)
脂質代謝に対して中立である。(脂質異常が少ない)
糖代謝に対して中立である。(糖尿病の人にも使える)
鎮静が少ない。
QT延長などの心電図異常を認めない。
セロトニン5-HT7受容体遮断作用により、認知機能改善効果が期待される。
ヒスタミンH1、ムスカリンM1受容体に対する親和性が殆ど無く、鎮静や認知機能低下の可能性が低い。
弱いながらα2A拮抗作用を有し、ノルアドレナリン分泌を増やす。
アジア人は白人に比べてルラシドンの血中濃度が上がりやすい。
最も一般的に見られる副作用は、アカシジア、吐き気、傾眠、ジストニアなどである。
空腹時を避けて、食後に服用する必要がある。
副作用の発現は、夕方以降に食後服薬すると起こりにくい。
以下は本剤の概略です。
一般名は「ルラシドン塩酸塩」(Lurasidone Hydrochloride)です。
分類は、非定型抗精神病薬・SDA(serotonin-dopamine antagonist)・第二世代抗精神病薬、に区分されますが、潜在的に気分安定効果も有しています。
構造式
保険適応(効能又は効果)は以下の通りです。
統合失調症
双極性障害におけるうつ症状の改善
用法及び用量は、
統合失調症では、1日1回40mgを食後に服用(最大80mg)
双極性障害におけるうつ症状の改善では、1日1回20~60mgを食後に服用(初期量20mg、最大60mg)
(ラツーダは、空腹時よりも食後投与の方が血清中濃度が高くなります。)
一般的な服用での注意点を2点示します
食後に服用すること
(吸収が食事の影響を受けやすく、空腹時投与では吸収が低くなる)
自動車の運転等危険を伴う機械の操作に従事しないこと
(眠気、注意力・集中力・反射運動能力等の低下が起こることがある)
副作用
安全性評価対象例数 876例(統合失調症692例、双極性障害184例)で見られた主な副作用は以下の通りです。
アカシジア(静坐不能) 8.6%
悪心 4.6%
傾眠 3.2%
頭痛 2.9%
不眠症 2.9%
嘔吐 2.4%
便秘 2.2%
振戦 2.1%
不安 2.1%
薬物動態(単回投与)
最高血中濃度到達に1.5時間かかります。
食後投与の場合の半減期は22時間です。
代謝
主に CYP3A4 による代謝を受けて体内から消失します。
また臨床で使われる用量では、 CYP 酵素を阻害しません。
CYP3A4による代謝を受けることから、CYP3A4を強く阻害する薬剤、逆に強く誘導する薬剤との併用は禁忌となっています。以下に禁忌となっている薬剤を示します。
強く阻害するため禁忌となっている薬剤(ラツーダの血中濃度上昇):
アゾール系抗真菌剤(イトラコナゾール、ミコナゾールなど)
HIV プロテアーゼ阻害剤
コビシスタットを含む製剤
クラリスロマイシン
強く誘導するため禁忌となっている薬剤(ラツーダの血中濃度低下):
リファンピシン
フェニトイン
CYP3A4 に関連し、以下の薬剤等は併用時に注意が必要です。
ジルチアゼム(ラツーダの濃度上昇)
エリスロマイシン(ラツーダの濃度上昇)
ベラパミル(ラツーダの濃度上昇)
グレープフルーツ含有食品(ラツーダの濃度上昇)
カルバマゼピン(ラツーダの濃度低下)
バルビツール酸誘導体(ラツーダの濃度低下)
セント・ジョーンズ・ワート含有食品(ラツーダの濃度低下)
また、アルコールは中枢抑制作用を有するので、併用によりラツーダの中枢神経抑制作用が増強される可能性があり、注意が必要です。
受容体結合親和性
受容体 | 親和性 Ki(nmol/L) | 備考 |
5-HT 2A | 0.357、0.470 | ドパミン遊離↑ |
5-HT 7 | 0.495 | 陰性症状改善、気分・睡眠・認知機能改善 |
ドパミン D 2L | 0.994 | |
ドパミン D 2 | 1.68 | 陽性症状の軽減、気分安定 |
5-HT 1A | 6.38 | |
アドレナリンα 2C | 10.8 | |
アドレナリンα 2A | 40.7 | |
アドレナリンα 1 | 47.9 | |
5-HT 2C | 415 | |
ヒスタミン H 1 | >1000 | |
ムスカリンM 1 | >1000 |