妊娠と精神薬

医師に成り立ての頃、「女性を見たら妊娠を疑え」と何度も言われました。

いろんな症状から疾患を判断するときや、検査のオーダーを出すときに、妊娠の可能性をいつも念頭に置く必要があるとの戒めです。

妊娠可能性のある女性に薬を処方する時は、いつも悩ましくて不安を感じてしまう。多くの医師がそうだろうと思います。

そんな中で、米国FDAの妊娠カテゴリーはとても有益な情報でした。これは、薬の危険性をA~D、Xのアルファベット5文字で簡潔明瞭に示したものです。

しかし6年前の2015年に、FDAはそれまで使っていた妊娠カテゴリーを新しいシステムと置き換えました。

アルファベット5文字で示すシステムでは、文字が一人歩きして誤った推測を生み、実際の診療に支障が生じる。実際の投薬判断は、ケース毎にいろんな情報を総合判断して決めるべきである。というような理由から変更に至ったと記憶しています。

2015年6月30日以降にFDAが承認した医薬品については、妊娠カテゴリーのアルファベットが付されなくなったのですが、やはりアルファベット表示は直感的にわかりやすいと思います。

今回は、以前FDAが示していたアルファベットによる妊娠カテゴリーを使用して精神薬の妊娠安全性表を作成いたしました。

加えて、オーストラリア保健省が提供している妊娠カテゴリーと、本邦の医薬品添付文書による分類も、併せて載せてあります。

各アルファベットの意味は文末に示してあります。



米国FDAの妊娠カテゴリー(簡略しています)

カテゴリーA
妊娠第1期に胎児リスクがあると証明されていない。それ以降の妊娠期でも、リスクを示す証拠がない。

カテゴリーB
妊婦における十分な研究はないが、動物研究では胎児への危険性を示していない。

カテゴリーC
動物で胎児への悪影響が示されている。ヒトでは十分な研究が行われていないが、潜在的なリスクがあったとしても、潜在的な利益のために妊娠中の女性への使用が正当化される可能性がある。

カテゴリーD
ヒトの胎児に対するリスクを示す証拠がある。しかし、潜在的なリスクがあったとしても、潜在的な利益のために妊娠中の女性への使用が正当化される可能性がある。

カテゴリーX
動物やヒトを対象とした研究で胎児の異常が確認されている。データからヒト胎児にリスクがあることを示す証拠がある。妊婦への薬剤の使用に伴うリスクは、潜在的な利益を明らかに上回る。

 

オーストラリア妊娠カテゴリー(簡略しています)

カテゴリーA
多数の妊婦および妊娠可能年齢の女性が服用して、奇形の発生増加や胎児への悪影響が確認されていない。

カテゴリーB1
限られた人数の妊婦および妊娠可能年齢の女性の服用では、奇形の発生増加や胎児への悪影響が確認されていない。動物研究では、胎児の障害発生が増加するという証拠が示されていない。

カテゴリーB2
限られた人数の妊婦および妊娠可能年齢の女性の服用では、奇形の発生増加や胎児への悪影響が確認されていない。動物研究は不十分であるが、胎児の障害発生が増加するという証拠が示されていない。

カテゴリーB3
限られた人数の妊婦および妊娠可能年齢の女性の服用では、奇形の発生増加や胎児への悪影響が確認されていない。動物研究で胎児の障害発生が増加するという証拠が示されているが、それがヒトにどれだけの重要性を持つかということが不明確である。

カテゴリーC
その薬理作用により、ヒトの胎児または新生児に可逆的な有害作用を与える可能性がある。奇形をもたらすことはない。

カテゴリーD
ヒトの胎児に、奇形や不可逆的な障害の発生を増加させる可能性がある。

カテゴリーX
胎児に恒久的な障害をもたらす危険性が高いため、妊娠中または妊娠の可能性がある場合には使用してはならない。

 

日本の添付文書から(添付文書の文言による便宜的な割り当てです)

添付文書には、カテゴリーA・カテゴリーBに該当すると思われる文言は見当たりませんでした。

以下文言をカテゴリーCとして割り当てました
「治療上の有益性が危険性を上まわると判断される場合にのみ投与すること。」

以下文言をカテゴリーDとして割り当てました
「妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には投与しないことが望ましい。」

以下文言をカテゴリーXとして割り当てました
「妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には投与しないこと。」

 

参考記事

妊娠可能年齢の女性