抜毛症の治療

抜毛症の分類と診断

抜毛症はトリコチロマニア(TTM)とも言われます。

抜毛症は、DSM-Ⅳでは衝動制御障害に、DSM-5では強迫関連障害に分類されています。また、ICD-10では習慣および衝動の障害F63.3に分類され、以下のように記載されています。

髪の毛を抜くという衝動に抵抗することに繰り返し失敗して生じる、顕著な毛髪損失によって特徴づけられる障害(ICD-10)

DSM-5では、類縁疾患である「皮膚むしり症」も、強迫関連障害の1つとして分類されています。

DSM-5による診断の要点は以下の通りです。

繰り返す抜毛(皮膚むしり)があり、それをやめようと繰り返し試みている。
抜毛(皮膚むしり)により、意味のある苦痛を受けている。
他の精神障害によってうまく説明されない。

 

抜毛症の概略

抜毛症の発症は思春期前であることが多いのですが、出産後に発症した例も報告されています。

抜毛は、家族以外の他人の前では起きません。

人によっては、他人の毛を抜きたいという衝動を持っていて、ペットや人形から抜毛することがあります。

不安や退屈な気持ちが、抜毛の引き金になることがあります。

毛を引き抜く直前に、緊張感の増加を認めることがあります。

また、引き抜く衝動に逆らおうとしたときに、緊張感の増加を認めることがあります。

抜毛したときには、満足・快楽・安堵感が得られることがあります。

環境は抜毛の大きな要因で、リラックスした状態は抜毛を助長することがあります。

人によっては睡眠中に髪の毛を引っ張ることが観察される場合があります。(自動抜毛症の極端例:睡眠分離型トリコチロマニア)

 

原因

抜毛症、皮膚むしり症には遺伝的な要因が関係すると考えられています。

強迫性障害をもつ人とその第一度親族では、一般人口よりも抜毛症、皮膚むしり症が多く認められます。

遺伝子として、SLITRK1遺伝子の変異が同定されたという報告があります。SLITRK1遺伝子は、トゥレット症候群や強迫性障害、醜形恐怖症にも関係するとされています。

抜毛症の人では脳の灰白質が多いという報告があります。しかし、これがどのように影響しているのかは不明です。

月経周期の開始時に、抜毛の衝動が強くなる場合があります。周期開始時のホルモン変化が影響していると考えられていますが、詳細は不明です。

幼少期にトラウマを経験した人は、抜毛症を発症する可能性が高いといわれますが、この考えを支持する十分な研究はありません。

 

併存疾患

抜毛症に併存することが多い精神疾患は次の通りです。

不安障害、気分障害(うつ病、双極性障害)、物質関連障害、摂食障害、パーソナリティ障害、強迫性障害、注意欠陥多動性障害(ADHD)

 

治療

行動療法の一種である習慣逆転法(HRT)の有効性が示されています。

HRTの5段階

①意識訓練/意識トレーニング
引き金となる心理的・環境的要因を特定します。
(日誌の利用)

②競合する反応の訓練
毛を引っ張る行動を別の行動に置き換える練習をします。
推奨される行動は、目立たず、人前で60~90秒間実行できるものでなければなりません。

③動機付けとコンプライアンス
HRTの重要性を思い出す活動や行動を行います。
(家族や友人からの賞賛、日誌への評価)

④リラクゼーション訓練
瞑想や深呼吸などのリラクゼーション技術を習得します。

⑤一般化トレーニング
新しいスキルを様々な状況で実践し、新しい行動が自動的に身につくようにします。

習慣逆転法は、習慣化した自動抜毛の人に最も有益であるとされています。

治療のヒント

抜毛症を隠すことは不安を悪化させます。

指先に絆創膏を貼ると、抜毛を意識するのに有効です。

髪を切ること(可能であれば一部剃ること)は、有効です。

バンダナの使用は有効です。

治療薬

本邦では抜毛症の効能効果を持つ薬剤はありません。
また米国においても、米食品医薬品局(FDA)が承認した治療薬はありません。

承認薬はありませんが、治験や症例報告などで、一定の有効性を示すことが報告された薬剤が数種類あります。

N-アセチルシステイン(NAC)
現在もっとも有望とされる薬剤ですが、子どもでは有効性は低いようです。成人では一定の効果が認められています。また、大きな副作用が無いのも利点とされています。

オランザピン
ある研究では、10.8±5.7mg/日の用量で、投与された被験者の85%が改善を示したと報告されています。

クロミプラミン、パロキセチン、リチウム、メチルフェニデート、アリピプラゾールなどが有効であったとする報告もあります。

治療の有効性を高めるためには、行動療法を実施するとともに、併存疾患や併存症状の適切なコントロールが重要であると思われます。

 

参考記事

抜毛症、皮膚むしり症

抜毛症(続)、習慣逆転法

2020年9月18日 | カテゴリー : 強迫関連 | 投稿者 : wpmaster