境界性パーソナリティ障害の治療

境界性パーソナリティ障害BPD:Borderline personality disorder)が示す行動パターンは、不適応的かつ機能不全的で、対人関係においても社会対応においても幅広く、柔軟性を欠く反応として表現されます。

精神科的環境でのBPD有病率は20%に近づいているという報告もあり(Kernberg OF)、極めて重要な障害です。

BPDでは、感情的な不安定さ、結果を考慮せずに衝動的に行動する傾向、激しい怒りの存在があります。

激しい怒りはしばしば暴力につながります。

絶えざる苛立ちと他者との衝突は、誰かれ構わずに怒り喧嘩するという傾向を生じます。

BPDには、感情的な不安定さと、自己イメージ・目的・内的嗜好(性的なものも含めて)が、不明瞭で混乱しているという問題があります。

それ故、他者との関係は激しく不安定です。

感情的な危機、見捨てられることを避けようとする過度の努力、繰り返される自殺の脅し、自傷行為などにより、心は慢性的に空虚です。

DSM-5が記述する境界性パーソナリティ障害の本質的な特徴は、成人早期に始まる、著しい衝動性に伴われた、対人関係・自己イメージ・感情の不安定さです。

ICD-10には、境界性パーソナリティ障害の独立したカテゴリーは存在しません。

ICD-10には、情緒不安定性パーソナリティ障害(F60.3)が記述されており、2つのカテゴリに分類されています。

情緒不安定性パーソナリティ障害(F60.3)
感情の不安定さを伴い、結果を考慮せず衝動に基づいて行動する傾向が著しいパーソナリティ障害。あらかじめ計画を立てる能力にきわめて乏しく、強い怒りが突発し、しばしば暴力あるいは「行動爆発」にいたることがある。これらは衝動行為が他人に非難されたり、じゃまされたりすると容易に促進される。

衝動型(F60.30)
支配的な特徴は情緒の不安定と衝動統制の欠如である。暴力あるいは脅し行為が、とくに他人に批判された場合、突発するのがふつうである。

境界型(F60.31)
情緒不安定ないくつかの特徴が存在し、それに加え、患者自身の自己像、目的、および内的な選択(性的なものも含む)がしばしば不明瞭であったり混乱したりしている。
通常絶えず空虚感がある。激しく不安定な対人関係に入り込んでいく傾向のために、感情的な危機が繰り返され、見捨てられることを避けるための過度の努力と連続する自殺の脅しや自傷行為を伴うことがある。

(ICD‐10 精神および行動の障害―臨床記述と診断ガイドラインより)

ICD-10では、DSM-5の基準9にある妄想・解離といった精神病的な特徴は含まれていません。

DSM-5はまた、すべてのパーソナリティ障害を2軸障害と定義しています。

BPDには併存症が高率に存在します。少なくとも生涯で1つの精神障害が併存するリスクは、ほぼ100%です(Pascual JC)。

不安障害、うつ病、双極性障害、薬物乱用、心的外傷後ストレス障害(PTSD)が、BPDで一般的に見られる併存症です。

BPDの経過はさまざまですが、以前考えられていたよりも寛解率が高くなっています。

BPDの自殺率は、気分障害や統合失調症の自殺率と類似しています(Links PS)。

BPDの治療では、症状を対象としたアプローチが支持されています。これは、認知と知覚に関する症状・衝動的でコントロールに欠けた行動・情動の調節不全といった症状を標的とした治療です。

BPDの薬物治療に関しては、現在一貫したコンセンサスは存在しません。

BPDの薬物治療に入る前に、現在比較的成功している心理療法について概観します。

コクランレビューでは、エビデンスの質は低いものの、弁証法的行動療法(DBT)とメンタライゼーションに基づく治療(MBT)は一定の有効性を持つと結論づけられています。

それによれば、DBTは、BPDの重症度、自傷行為の軽減、心理社会的機能の改善に優れており、MBTは、自傷行為と自殺行為の軽減に効果的である可能性が指摘されています。

 

弁証法的行動療法(DBT:Dialectical behaviour therapy)

弁証法的行動療法(DBT)は、BPDの治療のために考えられた心理療法です。

DBTでは、2つの重要な要素がBPDを形成するという考えに基づいています。

①感情的な脆弱さ。

ささいなストレスが、BPDの人を非常に不安にさせます。

②感情を顧みられない環境での生育。

例えばBPDが子どもの時、不安やストレスの感情を訴えたのにも拘わらず、あなたには悲しみを感じる権利がないと親に捨て置かれたのかも知れません。

これらの2つの要因は、悪循環を生みます。

このように生育した人は、強烈で動揺する感情を経験した時、そのような感情を持つことに対する罪悪感や無価性を感じます。

BPDの人は生育する中で、このような感情を持つことは悪であるという思いを育てます。その思いは激しく動揺する感情につながって行きます。

DBTの目標は、この悪循環を断ち切ることです。

DBTでは、妥当性と弁証法という2つの重要な概念を導入して、この悪循環を断ち切ります。

妥当性:自分の感情を受け入れることは、有効で、現実的で、受容可能である。

弁証法:人生には、「黒か白」で決めつけられるものははめったにない。自分の考えと矛盾する考えや意見に対して、オープンであることは重要である。

例えば、自傷行為を見てみます。

激しい悲しみの感情が自傷行為を引き起こしても、そのことがBPDの人を無価値にはしないという事実は受け入れ可能です(妥当化されます)。

しかし、自傷行為が悲しみの感情に対処する唯一の方法であるという仮定には異議が唱えられます(弁証法)。

DBTスキルワークブックの冒頭の部分だけ紹介します。

 

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あなたがストレスに対処するために行っていることをチェックしてください

[ ] あなたは、過去の痛み、間違い、問題について考えることに多大な時間を費やする。

[ ] あなたは、将来起こりうる痛み、間違い、問題について心配して不安になる。

[ ] 困難な状況を避けるために、他の人から孤立する。

[ ] アルコールや薬物で自分を麻痺させてしまう。

[ ] 激しい怒りを相手にぶつけたり、相手をコントロールしようとしたりして、自分の感情を相手にぶつける。

[ ] 自分を切ったり、殴ったり、つまんだり、火傷させたり、自分の髪の毛を抜いたりするような、危険な行為に従事する。

[ ] 行きずりの人との性行為や、度重なる無防備な性行為など、安全でない性活動に従事している。

[ ] 虐待や不健全な関係を放置して、問題の原因に対処することを避ける。

[ ] 食べ過ぎたり、全く食べなかったり、食べたものを吐いたりして、自分を罰したり、コントロールするために食べ物を使う。

[ ] 自殺を試みたり、無謀な運転や危険な量のアルコールや薬物を摂取するなど、リスクの高い活動に従事している。

[ ] 社会的なイベントや運動などの楽しい活動を避けている。おそらく、自分はより良く感じるに値する人間ではないと思っているから。

[ ] 自分の痛みに降伏して、惨めで充実していない生活に身を委ねている。

これらの行動はすべて、一時的な救いを提供しますが、さらに深い痛みへと続く道です。将来的にはより多くの苦しみを引き起こします。

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メンタライゼーションに基づく治療(MBT:Mentalisation-based therapy )

MBTもDBTと同じく、BPDのために開発された心理療法です。

まず、メンタライゼーションという言葉の意味を理解しておきます。

辞書には、メンタライズという動詞は「精神状態の産物としての他人の行動を理解すること」(mentalize)、メンタライゼーションとは「自分や他人の行動の背景にある、精神状態を理解する能力」と記載されています(mentalization)。

メンタライゼーションという用語を広めたフォナギーの、「メンタライゼーションとは何か」には、以下のように記されています。

私たちがメンタライズするとき、私たちは人間の行動を認知し解釈するという、想像に富む精神活動に従事しています。人間の行動というものは、意味のある精神状態の反映ですから。

メンタライズするためには、他の人が何を考えているのか、何を感じているのかを想像する必要があり、想像力を働かせなければなりません。

私たちは、他の人の心の中を知ることは決して出来ません。

また、直感に反しているかも知れませんが、自分自身の精神的経験を理解するのにも、想像力の飛躍が必要なのです。

とりわけ、感情的に緊迫した問題についてはそうです。

自己を統一されたものとして組織化することや、感情を調節・制御するのには、メンタライズする能力が必須なのです。

(Peter Fonagy ; What is Mentalization? The Concept and its Foundations in Developmental Research and Social-Cognitive Neuroscience)

メンタライジングとは、自分自身の感情と、他の人の感情に焦点を当て、両者の違いを区別する能力です。

つまり、他の人も自分自身の考え・感情・信念・希望・ニーズを持っていることを認識する能力です。

自分が行う他の人の精神状態の解釈は必ずしも正しくないということは、この能力があることで理解可能となります。

この能力は、普通の人には一般的な能力として備わっていますが、BPDの人はこの能力が低いと考えられています。

メンタライズ能力の不足はしばしば、不安定な愛着や人生の早い段階での遺棄から生じます。

自分や他の人の感情がうまく理解できなければ、自分のよくない感情や行動を制御することも、他の人の考えや感情を正しく理解することも、両方ともが困難になる可能性があります。

他の人の行動の背後にある意図を理解できなければ、その人との関係を壊してしまうような、衝動的で不適切やり方で反応してしまうかもしれません。

たとえば、多くのBPDは、突然自傷行為をしたいという衝動に駆られて、疑うことなくその衝動を満たします。

彼らには、その衝動から「一歩引いて考える」という能力が不足しています。

また、「それは健康的な考え方ではない。自分は動揺しているのでこのように考えているだけだ。」と、自分自身に語る能力を欠いています。

メンタライゼーションを強化し、感情コントロールの改善を図るというのが、MBT治療の核心部分となります。

MBTのゴールは、

自分と他人の精神状態を認識する能力を改善すること、

自分や他人についての考えから「一歩引いて」、その考えが妥当かどうか確かめられるようになること、です。

 

BPDの薬物療法

ここでは、オーストラリアのガイドラインに記載されたメタアナリシスの結果を中心に、やや古くなりましたがアメリカ精神医学会(APA)や生物学的精神医学会世界連合(WFSBP)のガイドラインも加えて、BPDの薬物療法を紹介します。

 

SSRI

SSRIは、BPDにおける情動調節不全・衝動性調節不全の初期治療に用いられます。情緒不安定性に有効性があると考えられています。(2)

また、認知知覚症状の追加薬として用いられます。(2)

フルボキサミン

フルボキサミン(SSRI)は「怒り」を除くBPD症状の改善と関連していました。(1)

 

気分安定薬

情動調節不全に対してSSRIが部分的に有効な場合、SSRIに気分安定薬(リチウム、カルバマゼピン、またはバルプロ酸)を加えます。(2)

衝動性調節不全に対してSSRIが部分的に有効な場合、SSRIにリチウムを加えます。リチウムが効果的でない場合、カルバマゼピン、またはバルプロ酸に切り替えます。(2)

バルプロ酸

バルプロ酸は、「過敏性」、「抑うつ」、「対人・社会機能」の有意な改善と関連していましたが、「怒り」の改善とは関連していませんでした。(1)

ラモトリギン

ラモトリギンは、「怒り」の有意な改善と関連していましたが、BPD 症状の改善とは関連していませんでした。(1)

ラモトリギンは、BPDの「怒り」と「攻撃性」にプラスの効果を及ぼすことがわかりました。(3)

トピラメート

トピラメートは、「敵意」、「不安」、「対人・社会機能」の有意な改善と関連していましたが、「怒り」や「抑うつ」の改善とは関連していませんでした。(1)

トピラメートは、BPDの「攻撃性」にプラスの効果を及ぼすことがわかりました。(3)

 

抗精神病薬

認知知覚症状に対して、低用量の抗精神病薬を用います。ペルフェナジン4〜12mg /日、オランザピン2.5〜10mg /日、リスペリドン〜4mg /日などです。(2)

非定型抗精神病薬は、認知知覚症状、「怒り」、「衝動性」に対して一貫した効果を示しました。(2)

第1世代および第2世代の抗精神病薬は、統合失調症よりも低用量で機能するようです。(3)

ハロペリドール

ハロペリドールは一般機能の有意な改善と関連していましたが、うつ病の有意な悪化と関連しており、BPD症状、敵意、不安に変化はありませんでした。(1)

アリピプラゾール

アリピプラゾールは、精神病理学的一般症状、「怒り」、「敵意」、「抑うつ」、「不安」、「対人関係および社会的機能」の有意な改善と関連していました。(1)

全体として、アリピプラゾールはいくつかのアウトカム指標において最も一貫した有益性を示しました。(1)

オランザピン

オランザピンはBPD症状、精神病理学的一般症状、「敵意」、「過敏性」、「一般機能」の改善と関連していましたが、「怒り」、「抑うつ」、「不安」、「自殺傾向」、「対人・社会機能」の改善とは関連していませんでした。(1)

 

ベンゾジアゼピン

ベンゾジアゼピンは、鎮静、認知および運動の障害を引き起こし、精神療法に悪影響を与える可能性があるため、BPDの患者には強く推奨されません。自殺のリスクについては、減らすよりもむしろ高める可能性があります。(3)

アルプラゾラム

アルプラゾラムを投与された人では、重篤な制御不全のエピソードが増加しました。(3)


参考文献

(1)Clinical Practice Guideline for the Management of Borderline Personality Disorder (Australia, NHMRC 2012)

(2)Practice guideline for the treatment of patients with BPD (APA 2001)

(3)Guidelines for Biological Treatment of Personality Disorders (WFSBP 2007)